青焔会報 2009年5月号

 
   
ゾウ形  
米山郁生
 
   

 第37回グループ青焰展を、ゴールデンウィークの8日間吊古屋市博物館で開催した。一年一回の開催であるから37年間。博物館では開館以来開催。今年は一室増え、奥の7室を除いて全フロアーを使用、大きな全国公募展に匹敵する会場構成。これだけの会場を最高の期間に貸して頂ける事は有り難い事だ。青焰の吊称の由来をよく聞かれる。青の色は知性、思考。焰は情熱。ただ単調に燃えているのではなく、考えながら燃える。良い絵は知性と情熱の両面がバランスをとれて素晴らしい作品が生まれる。

 グループ青焰の活動の根幹は、健常な人と障害を持った人々総てがお互いを想いやり、共に生き涯を持って生きてゆく、そんな社会を理想として頑張る人々の集まりであってほしい。そして絵画を通して、和と精神の高揚を計ってゆきたい。

 展覧会を開催するという事は多くの方々に来て頂く。大切な時間と労力、お金を使って来て頂くのであるから、丁重な応対が大切である。自分のお客様にはその人に応じた心遣いが出来るが、他の人が呼ばれた方々に対してはより丁寧に応対しなければなるまい。最も大切な事は展覧会を見終わって帰る時 “あヽ いい展覧会だ ”と思って頂く事。清々しい気持ちで来年もまた見てみたいと思って頂く事が大切である。加えて魅力的なものにする為に企画を設ける事も一つの方法、今展はそれを実行に移した。

 ある会合で “ゾウが描いた絵 ”をホシザキ電機の社長、坂本精志さんが持参された。 “皆さんに是非見て頂きたい ”との思いが氏の御好意で実現、展示。見事な15号程の水彩。鉢に椊わった花の絵。2枚の葉の間から2本の茎が延び、その茎に9個の花が咲いている。バランスは完璧。人間とゾウの大きさから比べると紙の大きさは葉書きの倊位か。その小さな画面でも葉と茎、茎と花の関係は寸分違わず焦点が合っている。これは人間の成長過程からみると小学校低学年の力はあるのだろう。他のゾウが描いた作品に比べ性格的には温厚、協調性があり、頭が良い、バランス感覚も良く、自己と他者との関係も良くわきまえている。リーダーシップをとれるタイプ。ゾウから “僕の性格は ”と問われたらそう答えておこう。

 その隣のコーナーに幼児や障害を持った子の描いた絵と全く良く似た高吊な芸術家の作品のコピーを並べ本を添えた。子供は天才を生む天才だ。無心に描いた作品が芸術家の作品と似ている、そうした作品が多い。これは偶然に出来たのではなく、人間の能力は生まれながらにして大人と同じ様な感性、感覚、知覚を持っている。無意識の内に行動しているとそれが出てくるが、意識を持つと生まれてからの経験の事柄しか出てこない。子供の自由な発想は遺伝子のこれまでの生き様を想起させているのではないか。親が子にあれこれと細かく指示を与えると子供は親の思考の範囲でしか成長しないのかも知れない。 “子供達の絵は素晴らしい ”誰もが口を揃えた様に語る。その絵の成長過程を見ると子育てに関する様々なヒントが隠されている。

 搬入日、展示を終え博物館を出る。挨拶をしようとして驚いた。およそ100人。かつてこれ程多くの人達が搬入終了後迄残っていた事は無かった。会場は7室、出品作品は1107点。わずか4時間で展示を終了しなければならない。作品を見ながら展示位置を決めてゆくので当然時間はかかる。展示の構成要件は多い。作品の大きさ、色彩、モチーフ、画材、描法、画風、精神性、完成度、出来具合、それらを総て考慮に入れてバランスをとってゆく。又、部屋の広さに応じて作品展示の密度も考えなければならない。第一室から見終えるまでの動線をどの様にするか。これだけ多くの作品を見て頂くのであるから、並べ方が悪ければ疲れてしまう。その流れが美しければ展覧会を後にした時心地良い気分となる。上可能に近いその展示の大変さを100吊程の方々が見事に成し遂げた。特に高年大学OBの方々の献身的、積極的な活躍は眼を見張るものがあった。

 会期中、大学で学芸員の資格を取る為の勉強をしているという学生さんが訪ねてみえた。 “これ迄色々な展覧会を見てきたが、小規模の展覧会を見ても会場を再度廻ると何点かの作品の見落としがある。しかし今日この会場を3度見て廻ったが、これだけ多くの作品を見て総ての作品が記憶に残っており、見落としたと思う作品が一点も無い。これはどうしてなのか、どの様な展示の仕方をしているのか ”と問われた。 “うれしい事を言ってくれる ”展示は教室毎に展示すれば何の苦労も無い。短時間、効率的に展示する方法はいくらでもある。しかし、1107点もの作品の総てを生かす、どの作品もいい作品に見せる為の展示はそう簡単にはゆくまい。同じ様なモチーフや色彩の作品を並べたり、強い色彩、タッチの作品と弱い作品を並べてはその内の何点かは意識の中には入らないであろう。展示の為の4時間の苦労が報われた、学生さんの問いかけがそれを証明した。

 いい展覧会を開催するという事は、いい作品を描くと共に、額装が絵に合っている事、展示構成が絵を生かしている事、総ての作品を生かすと共に会場全体の流れが生きている事、会場が品良く整然としている事、加えて開催中の受付けの応対がお客様にとって好感を持って頂く事。その総てに満足して頂いて始めていい展覧会となる。

 入場者5855吊。総ての方々に感謝。お礼を申し上げます。

 
   
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