青焔会報 2008年4月号

 
   
暴発  
米山郁生
 
   

 六月一四日 無名會の搬入が二日後に迫る。前日表装をしなければならないとすると、作品は今日中に仕上げなければならない。何を書くか、その構想も決まっていない。朝7時、とに角その作品の下地を創るべくF50のパネルを焼く。焼いたあとから書作品を4〜5枚、書体の変化、筆触、墨色の変化で作品構成をする。文体はパネルを創りながら考える。バーナーで焼きつけ70%程進めた頃、カートリッジの液体ガスが切れる。予備の取り替え用は3本保管。携帯用噴射装置を器具から外す。器具の止め金を外しカートリッジを取り替え固定する。噴射装置をネジ込めると先端の針がカートリッジに差し込まれる。全く簡単な操作で、これまで二百数十個使ってきたがトラブルは無い。しかし新しいカートリッジに噴射装置をネジ込んだ途端、中の液体プロパンガスがもれた。猛烈な勢い、ガスが体中に吹き付けられる。僅かの内に器具は氷よりも冷たい程に冷えてゆく。急いで噴射装置を外し、暴発の危険を避け、研究所から屋上に出る。幸い使用の途中でも取り外し可能なカートリッジを挿入してあったのでガス漏れは止まった。各箇所の異常を細かく調べたが問題は無い。下手をすれば爆発の危険があるが、この朝作業を進めないと作品搬入に間に合わない。二つ目のカートリッジを取り付ける。先程のものより更に激しく噴射する。何度つけ直してもガス漏れは激しくなる。三つ目も駄目。

 その時知人から電話、思わず事の次第を話す。“これは何かの前ぶれ、予兆。大きな地震か爆発が必ずある”と。

 その35分後、岩手、宮城内陸で震度6強の地震発生。

 夕刻、カートリッジの異常をメーカーに問い合わせるべく再確認の為取り付け直しをする。一つ、二つ、これ迄通り何の支障もなく、ごく自然に使用可能。朝の騒ぎは何だったのか。やはり地震発生による何らかの前兆なのか。

 ある会合で地震の話しが出た。世界各地で様々な災害が起こる。“先生、地震は大丈夫ですか。起こりそうだったら教えて下さいよ”“ここのところ東海は大丈夫ですよ。外国では大きな地震がありますね”その話しの十日後、中国四川省の地震が起こる。

 六月二日、岐阜県駒野で講演。幹線道路を走ると時間が掛る。前日、高速道路での地図を調べてもらい準備万端。当日、朝、なぜか“高速道路を走ると時間が掛るから下を走る”と予定より40分早く研究所を出る。“高速を走ると遅くなる・・・”矛盾した発言はなぜか。講演の時間の30分前予定通り現地に着く。案の定、車のラジオから高速道路はインター周辺の集中工事で10キロ渋滞、高速道路を使っていたら講演には間に合わない。

 保育士になる人の為の専門学校がある。保育士になるには社会福祉、児童福祉、発達心理学、保育原理等10科目を60点以上、音楽、絵画、言語の内から2分野を選択、各々60点以上、3年間の内に取得して資格を得る。絵画の講義の時、精神的に不安定な弱い寂しい絵を描いている受験生が居た。力があるのにその状況では合格は不可能とみて、その由伝え研究所の案内をしておいた。翌年も受講、心の在りようは昨年と同じ、先回は何を言ったか覚えていないが、当人曰く、昨年と同じ事を言われ思い当たる事が色々あったのでと訪ねてくる。

 ある日、生徒のKさんが“先生、相談がありますが”聞くと“娘が結婚をすると言うので”“そう良かったね。おめでとう”“すぐに外国に一緒に行くというので”ともどかしい。娘さんは社会の様々な事に関心を持つ活動家。政治家、芸術家とも交流が多く、母親と何度か訪ねて来ている。心配なのだと察知。“彼の写真ありますか”と聞くと“はい持ってます”とすぐに取り出す。娘の彼の写真を母親が持っているという事は最初から母娘共相談するつもり・・・!

 写真を見て、保育士志望の子の近くに席を作り母を呼んだ。彼は我まま、母親に甘やかされて育ち、自分から行動するタイプでは無い。自分が外国に行きたいが、不安で娘さんの個性、行動力を利用して外国へ行こうとするが、自分が思う様にならないと暴力を振るう様になりますよ。お互い孤立して相談する人も無く、事件を起こす様になる事も、と反対した。母親が娘に電話、替わる。もう準備は出来てすぐにでも二人で発つと言う。写真を見ながら彼の性格や考え方、状況に応じた行動や問題点を指摘する。総てを納得、行動する事も早いが理解も早い。“判りました、じゃ 止めます”

 保育士志望の女性はこのやりとりを総て聞いていた様子。写真もすぐ見える机の上に置いたので時折りじっと見ていた。それも総て意図しての事、“お母さん、娘さん結婚止めるって言ってるよ”“ありがとうございます”お母さんの声を聞いて保育士志望の女性が急に話に入って来た。“私の主人の事と全く同じです。性格もそして写真の顔も…。自分の事を言われている様に聞いていました。私も主人に暴力を受けて、やっと離婚出来て、今思い出しても恐怖心が…。色々な事が信じられなくて悲しくて、暗くて、写真もそっくりです。”と語った。その年彼女は保育士試験に合格。主人の事もふっ切れました、頑張っていい保育士になりますと始めて笑顔で挨拶に来た。

 この原稿を書き始めた頃、新栄教室の寺澤さんが知人の友人が「遠位性ミオパチー」という病気になり難病認定の為の厚生大臣宛の嘆願書に署名をと用紙を持参。遠位性ミオパチーとは体の中心部分から一番遠く離れた部位の足先や指先から筋力低下が起こり、車いすでの生活や寝たきりになってしまう進行性の病気。こうした活動は政治家への働きかけが最も効果的になる。困った人、苦しんでいる人への協力はグループ青焔としても力を尽くしたい。さて政治家は、と思っていた矢先、車椅子の市会議員さいとうまこと氏から総会の案内が届いた。福祉と医療がテーマ。対談民主党の谷ひろゆき氏。数あるプロフィールの中には党の障害者自立支援法フォローアップ作業チームの座長、難病対策議員連盟事務局長、難病センター研究会世話人、等々関連の要職がズラリ。日程を見る。ギッシリ詰まった日程の中で総会の日、時間だけがポッカリと空いている。場所は目と鼻の先、吹上ホール。レッスンに支障も無し。

 願いや思いがストレートに伝わる、不思議と幸運・・・・・

 
   
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