青焔会報 2006年12月/2007年1月合併号

 
   
宝石  
米山郁生
 
   

 “憎しみは憎しみによってではなく愛によって消える” 1951年9月、サンフランシスコ講和会議の席上セイロン(現スリランカ)の代表、ジャヤワルダナ大蔵大臣(後に大統領)が発言、日本に対する損害賠償請求権を放棄、また一部の連合国の提案した分割統治にも反対した。時と場所を得た発言が今の日本の繁栄に少なからず影響していたといっても過言ではあるまい。

 16世紀の始め、1505年シナモン貿易の独占を目論んでポルトガルが侵攻統治して135年、その後オランダに156年、イギリスに152年と支配され続けたセイロン。1942年4月、第二次世界大戦の戦下、インド洋上の日本軍艦船から発進した戦闘機はコロンボとトリンコマリーの港湾施設を爆撃、多くの損害を与えた。

 1948年2月4日英連邦自治領として独立、1955年国連加盟。1972年には国名をそれまでのセイロンからスリランカ民主社会主義共和国と改めた。スリとは光り輝く、ランカは島、“インド洋の真珠”“光り輝く島”と言われるスリランカは2003年の国勢調査によると仏教徒が70%、ヒンドゥー教徒が10%、イスラム教徒8,5%、キリスト教徒11,3%。民族構成では仏教徒がシンハラ人、ヒンドゥー教徒がタミル人、イスラム教徒はムーアと呼ばれ一部にマレー人、キリスト教徒は西欧人と地元人の混血、そして一部のシンハラ人とタミル人。多民族国家による民族衝突も多く、1956年国会がシンハラ語公用語法を制定、タミル語を非公用語化。1972年仏教に準国教的な地位を与える事に決めてから民族間のトラブルが激しくなっていった。数々の内戦状態の中で子供達の眼の前で両親が殺戮されたり、家、兄弟を失った子供達も多い。その子供達に精神的、物質的に援助している一つの団体オヴァ・ママの会(あなたと私の意)がある。リーダー的活躍をしている赤羽氏との交遊の中から、子供達の絵からその心理を読み、子供達にどうアドバイスをしていったら良いかを伝える為連携を取った。10年。その作品を5月のグループ青焔展にも展示、交流と同時にアートセラピーの為の意義と効果を計った。

 一昨年の十二月、スリランカの養護施設に出かけ実際に子供達に出逢い、絵の中から想定してきた見方、考え方を実証する事になった。しかし津波の為予定した飛行機は欠航、小牧空港で急遽中止。この年末年始再現する事になったのである。年末は多忙、準備する日数は無く前々日の1日のみ、出発は午前6時。研究所で一時間前迄年賀状を書き続け、家に帰り風呂に入って6時には金山。我ながらスリル満点、慌ただしい旅立ちとなった。

空路10時間。スリランカの南部、南西部から中央部への行程、治安は良いが南部観光地は私達が日本に帰ってから翌日、翌々日、自爆テロがあり何人かの死傷者が出たと報道された。到着翌日、マータラのチルドレン・ビレッヂへ。施設では子供達約30人とスタッフが入口で行儀良く並び、手造りのレイで出迎えてくれた。2才から20才程。新しく入所した子供達もいるが、10年前3才から10才程の子供達も今は社会への参画を探り、様々な職業への模索を始めた。民族音楽への関心も高く、音楽では国内の施設の中では最優秀である彼等は自分達で造った楽器を愛用。それに音、リズムの優れたパーカッションを加えるのが夢であった。縁あって名古屋名東ロータリークラブから子供達に贈り物をとパーカッション一式を持参、贈呈。皆で組立て軽快なリズムに小躍りする子供達、物の有り難さ、大切さ、日本の子供達に味わわせてやりたい。“何も無い所からこそ生まれる感動”。日本の戦後、昭和20年〜25年程の生活水準の中で生きる彼等の眼は宝石の様に輝いていた。

 翌日は学校の先生が集まっての講演会。“絵から心を読む”。チルドレン・ビレッヂの子供達の絵からどの様に心をつかむ事が出来るのかを説いてゆく。津波の前の作品から津波の直後、そして一年経過した時点、子供達の心の動揺が表われる。先生の多くが首を横に振る、なぜ!。熱心に説く、子供達の10年の絵の変化、心の在り様を説く。皆更に首を横に。あまりの反応に一心に首を振っていた人に質問をする。“私達は子供達に上手く絵を描かせ様と教育をする、自由に描かせようとするのは何才迄位か。それはなぜか?”物事を決めたままに教え込むのは、成長してから人間としての幅が無くなる。8、9才位迄は自由に描かせる事によって可能性の幅を広げる事になる“皆が大きく首を横に振った。判ってもらえないのか、と少々落胆。翌日通訳の人に、皆さんがあんなに首を横に振る、何が違うのだろうと聞くと、”先生、違いますよ。日本で頷く事がこちらでは首を横に振る仕草をするのですよ・・・で一安心。

物の感じ方、考え方、絵の見方、国は違っても同じなのだ。

次号へ続く

 
   
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