青焔会報 2004年2月号  
   
いろ色  
米山郁生
 
   

 一月二十三日 日本福祉大学高浜専門学校で全体報告会が開催された。介護福祉を学ぶ学生が2年間の学業の成果をグループ、個人各々にテーマを決め実習先の施設の代表や、非常勤の講師ら三十名を来賓に迎えての昼食をはさんで五時間に及ぶ真剣な研究報告会。発表終了後、来賓三名に講評を求められた。施設の方に続き前任教師のI先生が見事な講評をされた。寸分もらさず真剣に適格に、丁寧に評した、最後に求められた私は言う言葉が無い。「I先生に以下同文です。」と言って座ってしまう訳にもゆかない、同じ様な事を言っても芸が無い。発表の最後に音楽療法、その前に回想法をテーマに研究発表があった、音楽療法に対応して絵画療法を、そして回想法的に思いつくままを延べる事にした。

 今日の報告会は素晴らしかった、各々の人がテーマに真正面から取り組み、思考を深め、その焦点を明確に示している。実行委員長のN君は私より立派な髭をたくわえており、もしかして私より年上なのではないですか?と問いかけ笑いを誘い間を取り、その間に何を語るか考えた―。目の前、舞台中央上部に第7回全体報告会と書かれた吊看板があった―。この字は私は最初から気になっていたのですが実に素直で生真面目、飾り気が無く純粋でいい字だと思います。誰が書かれたのですか?と又投げかけた。会場が少しざわつき、あちこちでささやく声、指を差す人、その焦点の中に少し身体をすぼめ顔をうつむきかげんにした男子学生が恥しそうに右手をソロリと中程迄上げた。周囲の学生達にせかされ手を7分程上げた。「あゝ貴方ですか。私はこの字がとても好きですよ、上手い下手に関係なく、見た人の気持ちを豊かにする。丁度今日研究発表された皆さんの気持ちを代弁している様に思えます。しかし社会に出ると人は様々な事を言います。線が細いとか、字が弱いとか、バランスを考えろとか書いた人の状況や気持ちを無視して自己の主張をしてきます。その時貴方がたはどうするか。この吊看板には1本の細い筆で字が書かれております、同じ筆でいいですから3本、5本、10本と束ねそれを一つかみにする、力の入れ具合によって個性的な、又力強い字が書けますね、これは字だけの事ではなく社会に出た貴方がたが、3人、5人、10人と集まり皆さんの連帯を深めてゆく事によって大きな広がりを持ち、知識を高め、力をつけてゆく事が出来ると思います。又、今日のメインテーマはカラーですね、一人一人が各々のカラーを持っているそれを大切にと主張するいいテーマだと思います。しかし世の中には実に多くのカラーがあります、冷たい色、暖かい色、穏やかな色、激しい色、強い色、弱い色、ゆったりとした色、神経質な色……百人百様、千人千様、数え切れないカラーの中で自己のカラーをどう生かしてゆくか。それは自己を主張するだけではなく相手の色と融合してどんな色に溶け合わせてゆくのか、自己の心と相手の心との融和でもあるのです。心と心が解け合って素晴らしい色を造り上げてゆく。中には澄んだ色も濁った色もあります、その濁った色をいかにして美しい色に仕上げてゆくのか、色と色というものはその溶かし具合にも影響します。弱い色に対し自分が強ければ自己の色に水を含ませて薄めてゆく、相手が強ければ水を差し上げてお互いの心を交わせて心地良い色合いに変えてゆく事が出来るのです。その人間関係の社会状況というものは絵の場合紙に置き換える事が出来ます。紙の種類は世界に何万種類という紙があります、相手の色を生かす為にどういう紙を使うのか、自分の色と重ねるときどちらを先に塗れば素晴らしい色合いを出す事が出来るのか、どの様に塗り重ねていったら良いのか、皆さんは介護福祉士として正にそうした事を日常的に心がける事が必要な事だと思います。今日の素晴らしい研究発表を土台として、これからどう社会に生かしてゆくのか皆さんの活躍を楽しみにしております。今日は私もいい勉強をさせて頂きました、頑張って下さい。と一気に話してしまった。脳というものは不思議なもので意識の中で構成しても中々それが言葉としてつながらない、が、自然体、無意識の状況では意外と上手く言葉が連係を保ってくれるものである。

 2年前、頼り無く、自信も無く不安げな様子で入学して来た学生達が見違える様に意欲を持ち眼を輝かせている。介護福祉士や作業療法士になろうとする学生はその生き方の中で既に人の為になる事を目的とした職業を選び学問を究めようとしている。その学生達を社会がどう受け入れるのか、汚れ、濁りの無い純粋な色合いを社会の色で染めてしまうのではなく、若者達に総ゆる可能性を試す、その機会を与えて上げる余裕があるかどうかだ。期末試験に生徒間の各々の生徒の心の中をどう読みとるかという課題の絵画とレポートを課した、同時にイラク戦争についてどう感じどう思うかもレポート課題とした。総ての生徒がその矛盾と自衛隊派遣に対する疑問、どの国とかにかかわらず人の命の大切さを力強く訴えた。その精神の清らかさを守ってやりたい。

 来賓控室に荒くれ6人組がやってきた。1年入学当初、髪がバサバサ、茶パツ、服装も荒くれて同級生達が少し距離を置いていた、その6人に初めての授業時各々の描いた絵を見ながら「この荒くれ6人組は本当は真面目で心が温かく、涙もろくて人情が厚く、寂しがり屋だ、が、親や友人に反発し自分達の弱い所を見せまいとわざと横着しているだけだ。」と評した。皆が一人の学生を押しやり「先生、こいつ彼女が出来たんで写真持ってきた、相性見てやってよ。」「相性抜群、但し努力が肝心。」髪は短くさっぱりした服装、入学当時とは見違える男共に「みんないい顔してる、眼もきれいだ。」と思わず口にした。帰り際、誰からとも無く「先生、くたばったら俺達が面倒見てやっからな!。」

 
   
青焔会報 一覧に戻る
 
   
絵画教室 愛知県名古屋市内外 青焔美術研究所 トップページ