青焔会報 2002年8月号  
   
五割引き  
米山郁生
 
   

 保育士になる為の保育自習、絵画の講義を依頼された、会場の中小企業センターに出かける。予定された部屋が無い。7F、8Fの会議室を一部屋毎に確認してゆく。無い。分刻みで行動する為、講義開始時間迄あとわずか。事務局へ電話をする。"今日は変更になりました。Aホテルの会議室です" "そんな連絡は聞いてないが" "いえ、FAXでしました"と事務員のあっけらかんとした声が返ってくる。"FAXなんて届いて無いじゃないですか。私本人に確認したのですか" "いえFAXで連絡しましたので・・・"埒があかない。時間が無い。とにかく車を駐車場に入れたまま、タクシーを飛ばす。Aホテルの前に責任者が出て頭をペコペコ下げている。"FAXなんて一つ間違えばどこへ届くか判らないじゃないですか。こんな重要な事を、本人に確認もしないでFAXを流すだけで済ますとは何事ですか。常識外れてますよ!"雷を落とす。落としながら、"あぁ、今はこれが常識なのかもしれない"と思った。会場で、受講者にあやまる。遅れた時間+αの延長講義をする。 "ところで今日遅れた理由は聞いてますか"と聞いてみる。 "聞いていません" "じゃ先回の理由は" "何も聞いていません"先回の講義はスケジュールの関係から、事前に変更の打ち合わせをし、講義日程も双方了解をしていたのだが、その日、留守電に"今日は講義で皆さん待ってますがどうされたのですか "驚いて電話をしても後の祭り。和泉元彌流ドタキャン劇は真っ平ご免。これまでレッスンを含め、約3万8千回の講座、講義等、人との約束に、間に合わなかったのは交通渋滞、病気等わずか十回足らず。彼らは"あの先生は時間にルーズだ"位に処置をしようとするのだろう。自分のミスははっきり認め、心を込めて謝っていないから、同じ様なミスを繰り返すのだ。

 研究所に時々行方知らずのFAXが舞い込んでくる。発信元、発信先が判るものは返送するのだが、不明なものもある。その様なFAXは双方でトラブルを起こしているのだろう。昔は他人のものを使う時はたとえ紙一枚でも相手に断ってから使用する。しかしFAXは勝手気まま。時には迷惑千万のものもある。伝達があいまいと言えば留守電、Eメール、携帯電話等必ずしも状況を正確に伝えるとは限らない。合理性を追うばかりの社会の風潮、仕組みがそうしたものを "良し"とするのだろう。そうしたシステムには必ず人の好意を利用した、ワン切り等の詐欺まがいの行為が現れる。

 日本ハムグループの牛肉擬装が発覚した、日本フードの三営業部長が、独断で擬装を指示。日本ハムの専務が証拠隠滅を計ったとして農水省が結論。社長は不問。しかし会社に忠誠を尽くす部長が、上司の指示、あるいは許可無く会社を窮地に追い込む事をするだろうか。擬装を計画する時点で発覚を予測出来たであろうに、あえて三人が各々違った方法を選んでまで。子供でも判る様な事を何も考えずに行動する人間が、部長になろうはずが無い。日本ハムの上部団体、ハム・ソーセージ工業協同組合が擬装牛肉の無断焼却を認める。その組合の理事長、理事が日本ハムの会長、社長である事は何を意味するか。7月の日本食品、そして雪印の偽装問題。国の牛肉買い上げ事業に関わった農畜産業振興事業団。総てが身内の利益の為に適当に目をつむり、国民を騙していた事になる。更にそうした不正が容易に行われる事を"是"とした農水省の責任も大きい。国民の税金を有益に管理すべき国が不正を助長する。官業癒着の構図が"判らん様に、適当にやれよ "と言っている様だ。

 社会が筋道を通す事を忘れ、自分に都合の良いシステムを作る。これは一部業界のみに限らず、社会全体に蔓延する。自分さえ良ければという思潮は、心地良い社会の三割引き、いや五割引き程度の品格しか保てなくなるのではないか。

 
   
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